■刑事処分について
・ 現状において、「軽度な過失」でも処罰されている。「重大な過失」か「軽度な過失」かという判断は、運用によってどのようにでも解釈し得る。
・ 悪質か否かも、運用によってどのようにでも解釈し得る。例えば、証拠隠しをしたものに限らず、営利目的、実験的、名声追求の利己目的、説明不足でも、どのようなものでも悪質というレッテルを張られかねない。つまり、運用に歯止めがない。
・ 現状において、薬剤や患者の取り違いといった、単純ミスは「重大な過失」とされている。死亡という結果の重大性に着目して「重大な過失」とされ、業務上過失致死罪が適用されている。
・ 現状において、刑事司法は結果の重大性に着目しているが、その取り扱いを変更することについて、何の権限もない厚労省の一検討会の意見に過ぎず、警察・検察の公式見解は書かれていない。
・ 第3次試案に書かれている通り「責任追及を目的としたものではない」ならば、行政処分機関にも捜査機関にも通知すべきではない。責任追及を目的としていないことの制度上の担保がなければ、現場の医療者は安心して診療に当たることはできない。
(参考)
・刑事司法が再び"暴走"する危険はないのか http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080214_1.html
・単純ミスは「重大な過失」か http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080115_1.html

■行政処分について
・ 厚労省は、管理者に対する新たな行政処分を設けようとしているが(医療法)、既に存在する行政処分について、十分説明すべきである。例えば、現状において既に次のような行政処分権限が存在する。
○健康保険法 ほぼすべての病院に毎年1回立ち入る
社会保険事務局が保険医・保険医療機関・保険薬剤師¬・保険薬局の指定・取消の権限をもつ
○医療法 ほぼすべての病院に毎年1回立ち入る(医療監視員)
都道府県が医療機関の開設・休止・廃止、増員命令¬、医療機関の業務停止命令、施設使用制限命令、管理者の変更命令の¬権限をもつ。
厚労省は特定医療機関に関してのみ権限をもつ
○医師法 
 厚労省が医師免許取消・医師の業務停止命令の権限をもつ
・ 医療法に基づく医療機関に対する処分権限は都道府県がもっているが(地方分権の流れになる前から、歴史的にも医療は県の行政)、重複して国が処分権限を持たなければならない理由は何か。国に新たな権限を創設するのではなく、県に任せるのが筋ではないか。ひとつの事案について、医療機関に対する処分と、医師(主治医等)への処分とが、両方発動される(厚労省が暴走する・単に処分が二重になるだけ)危険性が高い。
・ 現に、厚労省は、保険医取り消しの行政処分と、医業停止の行政処分を二重に行っている。医療機関や管理者に対する行政処分権限を創設すれば、医師(主治医等)に対する行政処分がなくなるわけではない。従って、「個人に対する行政処分については抑制する」保証はない。

■ 医療死亡事故の届出義務化について
・ 届出範囲を限定するとあるが、法令上の条文を個別ケースに適用するか否かは、法的判断をする者が個別に判断することであり、限定することを約束したことにはならない。委員会の結論が警察、検察に対して拘束力を持たない以上、その結論を尊重するといっても、具体的事件においては無視される可能性が高い。
・ 現に、厚労省は、犯罪等に適用されていた医師法21条を、医療にも拡大して適用した。厚労省が医師法21条の適用範囲を元に戻さない限り、法令の適用を「限定する」と言っても、信用できない。
・ 第3次試案の21条改正案では、医療機関が委員会へ届出なかった場合は、医師法21条に基づく警察への届出義務があるため、死亡事例すべて届出とならざるを得ない。上記の届け出範囲を「限定する」制度上の担保は存在しない。
・ 「制度化」は「義務化」を意味することは、西島英利議員の発言からも明らかである。
・ 透明性の向上とは何か。医療者が患者・家族に十分説明し、当事者間で話し合うことではないのか。第三者が介入する前に、当事者間の対話を促進するため、院内医療メディエーターを置くといった措置が必要である。当事者間で十分対話を行い、それでも患者・家族の納得が得られない場合に、第三者の介入が必要となる。

(参考)
・井上清成弁護士 「4つの原因究明」―死因究明制度・厚労省第二次試案の法的「目的」は?― MRICメルマガhttp://mric.tanaka.md/2007/12/25/vol_66.html
・元東京地検特捜部長 河上和雄弁護士 医療事故調に対する見解 MRICメルマガhttp://mric.tanaka.md/2008/03/26/_vol_33.html
・現場からの医療改革推進協議会 医師法21条の歴史と矛盾http://expres.umin.jp/genba/kaisetsu01.html
・西島英利議員インタビュー "医療事故調"の自民党案と厚労省案は別 ソネット・エムスリー聞き手・橋本佳子http://www.m3.com/tools/IryoIshin/071219_2.html

■医療安全調査委員会(仮称)について
・そもそも真相に最も近く、原因究明を行うべき主体は、当事者である医療者であり、当事者の前に第三者が介入することは、むしろ原因究明を阻害する。まず当事者である医療者が医学的・科学的な真相究明を行い、患者・家族に十分説明し、当事者間の対話を十分に行ったうえで、それでも患者・家族の納得が得られない場合に、第三者の介入が必要となる。
・ひとつの組織が2つの目的を持ち、いずれも達成されない可能性が高い。
・全国唯一の組織が「正しさ」を判断することは、医療の統制につながる。医療における判断・選択は、患者ひとりひとり、家族ひとりひとり、医療者ひとりひとりによって多種多様であり、「正しさ」の答えはひとつではないからである。全国唯一の組織が決める「正しさ」に、すべての国民が従わざるを得なくなり、患者・家族の自由な選択は阻害される。国の委員会に一元化することは危険である。
・医学的・科学的な真相究明を目的とし、複数の多様な委員会が、多様な医療専門家による多様な「正しさ」の判断を示せる制度とすべきである。多様な専門家による多様な選択が存在することを、患者・家族が知ることも、納得を得るために重要なプロセスである。
・責任追及を目的としないと明記したことは評価できるが、制度上の担保は何も示されていない。委員会は、責任追及の機能をもつ。
・「法律関係者」「法律家」を入れるのはなぜか。法的判断つまり責任追及をするためであろう。
・「医療を受ける立場を代表する者」を入れるのはなぜか。患者・家族の判断・選択は多種多様であり、それを第三者が代表することはできない。ひとりひとりの多様な選択を尊重するためには、当事者である患者・家族本人が、その希望によって参加するか否か選択できるようにするべきである。
・当事者を調査から排除するならば、ますます真実から遠ざかり、医学的・科学的な真相究明は不可能となる。この委員会が原因究明を目的としているとは考え難い。

(参考)
・井上清成弁護士 「4つの原因究明」―死因究明制度・厚労省第二次試案の法的「目的」は?― MRICメルマガhttp://mric.tanaka.md/2007/12/25/vol_66.html